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過去の演奏会

ヨハネス・ブラームス/交響曲第4番 ホ短調 作品98

Johannes Brahms (1833-1897)
Sinfonie Nr.4 in e-moll Op.98
第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ / I. Allegro non troppo
第2楽章 アンダンテ・モデラート / II. Andante moderato
第3楽章 アレグロ・ジョコーソ / III. Allegro giocoso
第4楽章 アレグロ・エネルジコ・エ・パッショナート / IV. Allegro energico e passionato

ブラームスは生涯に4つの交響曲を書きました。ブラームスの交響曲について、第1番が構想から完成までに21年の歳月を要したというのはよく語られる話です。 ベートーヴェンの9つの交響曲を意識するあまり第1番の作曲に慎重になったことは確かですが、21年ものあいだ1つの曲を作り続けていたわけではなく、自身の作曲技法の成熟を待った上での満を持した作曲であったと思われます。 その後は、第2番と第3番はそれぞれひと夏で、第4番はふた夏で完成させています。 このことから、ブラームスは第1番の作曲中にすでに4つの交響曲を構想し、自身の作曲家としてのありようをずっと考えていたのではないかと思われます。

ブラームスの4つの交響曲の調性を並べてそれぞれの主音を抜き出すと、第1番:ハ短調(C、ド)、第2番:ニ長調(D、レ)、第3番:へ長調(F、ファ)、第4番:ホ短調(E、ミ)となり、これは音楽史上の金字塔の1つであるモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」に登場することで有名なジュピター音型(C-D-F-E、ド-レ-ファ-ミ)と一致します。 また、ブラームスの師であるシューマンの残した交響曲も4曲です。偶然の一致かもしれませんが、用意周到なブラームスですから、この4曲ということに何か意味があるのではないかと、つい考えさせられてしまいます。

ブラームスは、1884年と85年の夏休みをウィーンの南に位置するミュルツツーシュラークという山間の保養地で過ごしました。 ここで交響曲第4番の作曲を行い、1884年に第1、第2楽章を、翌85年に第3、第4楽章を完成させました。 オーケストラによる初演に先立って、ブラームスはピアノ版で友人たちにこの曲を披露しましたが、その時の評価は芳しくありませんでした。 第2楽章では中世の教会旋法の1つであるフリギア旋法を、第4楽章ではバロック時代の変奏曲形式であるパッサカリアを用いており、その技法の古めかしさと複雑さは専門家でも理解することが難しかったということでしょうか。 ですが、ブラームス自身が指揮したマイニンゲン宮廷管弦楽団による初演は大成功を収めました。技法の古めかしさは諦観や哀愁を感じさせるとともに、随所にほとばしる情熱的な曲想が人々の心を打ったのではないかと思われます。

第1楽章 アレグロ・コン・トロッポ

ヴァイオリンによるため息のような3度下降により、いきなり第1主題が開始されます。この旋律(シ-ソ-ミ-ド-ラ-♯ファ-♯レ-シ)は、ホ短調の音階(和声的短音階:ミ-♯ファ-ソ-ラ-シ-ド-♯レ-ミ)を全て使った旋律です。 音階の操作のみでこの印象的な旋律を作り出すというところが、いかにもブラームスらしい理論的な作曲技法です。 また、この3度の音程は交響曲全体を通じて重要な役割をもっています。 ブラームスの交響曲では唯一提示部の繰り返しがなく、冒頭の主題が帰ってきたところでは繰り返したように感じますが、実は展開部に入っているという作りになっています。

第2楽章 アンダンテ・モデラート

中世の教会を思わせる、フリギア旋法による旋律がホルンから木管に次々登場した後、クラリネットを中心にホ長調の和音が鳴らされます。 弦楽器による第2主題はブラームスの作品中最も美しく感動的な旋律です。

第3楽章 アレグロ・ジョコーソ

ジョコーソは、「おどけて」や、「滑稽さ、戯れる楽しさ」などを意味する言葉です。 ブラームスの他の交響曲における第3楽章は間奏曲のような存在でしたが、この第4番では2拍子ですが初めてスケルツォと言える内容になっています。 他にもブラームスの交響曲では唯一、冒頭がffで開始されることや、ティンパニ以外の打楽器としてトライアングルが使われることが特徴的です。 ブラームスは第4楽章を完成させた後に第3楽章を書いており、底抜けに明るく楽しい楽章によって、この後に来る深刻な第4楽章の存在を隠す意図が感じられます。 同様の手法は、チャイコフスキーは交響曲第6番「悲愴」にもみられます。

第4楽章 アレグロ・エネルジコ・エ・パッショナート

パッサカリアによる、30の変奏とコーダから成る楽章です。 主題はJ.S.バッハのカンタータ第150番「主よ、わが魂は汝を求め」の第7曲を基に作られました。 パッサカリアは低音部が主題を繰り返しその上に主題の変奏が行われるものですが、ブラームスはより自由な発想で変奏を行なっており、何気なく聴いただけでは変奏曲であることに気づかないかもしれません。 ベートーヴェンの交響曲は短調の作品であっても最後は全て長調になりますが、ブラームスは自身最後となったこの交響曲を、激しく燃え上がる情熱的なホ短調のまま締めくくります。

(Y.H)

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