オーケストラ・ソノーレ長野 公式ホームページ

過去の演奏会

「うぶすな」復活演奏に寄せて

「ご当地作品」のある幸せ

小山清茂には、故郷である篠ノ井村山地区(旧更級郡信里村)の素材を基に書いた管弦楽作品がいくつかあります。郷土出身の世界に知られる作曲家が、地元の素材に基づく傑作を残している。望んで得られることではありません。何という恵まれた環境でしょうか!しかし何とももったいないことに、これまで地元ではほとんど演奏されてきていませんでした。

当団は、長野市では「後発」のオーケストラとして、独自の選曲にこだわっていることもあり、小山清茂の残してくれたご当地作品、「長野市生まれの傑作」を積極的に演奏していこうと考えました。幸せなことに、小山清茂を愛する地元の指揮者、加藤晃さんにご指導いただける環境にもあります(そもそも私は加藤さんのお陰で清茂先生の作品の素晴らしさを知りました)。

「信濃囃子」

最初に演奏したのは、小山清茂の出世作でもある「管弦楽のための信濃囃子」。なんと、市内の獅子舞のお囃子を使ったオーケストラの曲があるとは。それを演奏しない手はないということで、第12回定演で取り上げましたが、「古き良き日本」のイメージに留まらず、作曲者が故郷に寄せる切々たる思いが感じられる作品で、本当に胸が熱くなりました。しかも、作品の基となったお囃子のフレーズは、村山だけでなく、長野市周辺の多くの地区の獅子舞の道中囃子でも耳にするものなのです。昨年からゴールデンウィークで行われている「長野獅子舞フェスタ」では、至る所から「信濃囃子」が聞こえてきます。それが世界に通用する管弦楽曲になっている。これを「すごい!」と言わずに何と言ったらよいのでしょうか。当然「信濃囃子」はお客様にも非常に好評で、この作品は、当団がこれまで35回に及ぶ定期演奏会で唯一繰り返し演奏した曲(アンコールを除く)であるとともに、清茂先生が亡くなった際や、記念展示室が開設された際には、お膝元の信里地区で演奏するという栄誉もいただきました。

「もぐら追い」

次に取り上げたのは、信里の子供の正月行事に基づく「もぐら追い」です。この作品は、信州新町で行われた「愛郷コンサート」に出演した際に、加藤晃さんに勧められて演奏しました。「もぐら追い」は作曲者自身も気に入っていたようで、声楽曲をはじめとして、合唱、和楽器アンサンブルから吹奏楽まで、あらゆるジャンルの版が残されています。管弦楽版は、恐らく1984年に初演されて以来演奏されておらず、当然パート譜は一般に流通していませんでした。作品を委嘱・初演したプロ・オーケストラの関係先に問い合わせることも検討しましたが、最終的には、将来的にレパートリーとして繰り返し演奏することを想定し、パート譜を独自に作成して演奏しました(こっそり書いてしまいますが、今日のアンコールにもご期待ください)。

そして、「うぶすな」

「もぐら追い」のパート譜作成時に使用したのは、小山清茂自身が長野市に寄贈した自筆のスコアです。このスコアをお借りした際に、もうひとつ目を付けていた作品がありました。それが今日演奏する「うぶすな」です。「うぶすな」は、篠ノ井村山地区の子供のわらべ唄を主題とした作品です。清茂先生はその著書『田螺のうたが聞こえる』や『日本の響きをつくる』で何度となく触れていて、曲のタイトルも、まさに「生まれた土地」を意味する言葉。ソノーレのご当地シリーズ第3弾としてぜひ演奏したい!と思いましたが、和太鼓を3種類も使用することや、パート譜が一般に流通していないことなどから、なかなか取り上げられませんでした。

原曲の「箏と和楽器のためのうぶすな」は、交響組曲「能面」と双璧をなす、小山清茂の器楽曲の最高峰のひとつと言えます。その曲を基に、芥川也寸志が指揮していたアマチュア・オーケストラ新交響楽団の委嘱により改作したのが、「ピアノと管弦楽のためのうぶすな」です。新交響楽団の初演時の録音(LP、廃盤)を手に入れて聴いてみると、これまた生命力に満ちた全く独自の魅力を持つ作品。どうにも我慢できなくなり、演奏に向けて具体的な企画を始めました。

まずは客演者を

指揮をお願いしたのは当然加藤晃さん、そしてピアノ独奏はやはり長野市出身・在住の宮下静香さんにお願いしました。宮下さんは、ソノーレが小山清茂作品を演奏する際には、必ずオーケストラの賛助ピアニストとして参加していただいており、「うぶすな」の独奏をお願いするのは宮下さん以外考えられません。後日、宮下さんが清茂先生の地元、篠ノ井村山地区にもご縁があることを伺い、不思議なつながりに本当に驚きました。

問題の和太鼓も、幸い第30回定演で「木挽歌」に賛助出演していただいた「和太鼓一道」とつながりができており、ご快諾いただくことができました。

パート譜は独自に作成

最後に残ったハードルはパート譜の調達です。実はこれは比較的簡単に解決すると思っていました。初演した新交響楽団に問い合わせれば、多少時間はかかってもお借りできると考えていたのです。ところが実際に問い合わせてみたところ、紆余曲折の末判明したのは、「うぶすな」のパート譜は現在行方不明となっているという事実でした(実はこの結論に至るまでにはいろいろドラマがあり、場合によっては今日の演奏会に間に合わないという結果もあり得ました…今思い出しても冷や汗ものです)。

結局、長野市に寄贈されたスコアを基に、独自のパート譜を作成することにしました。「もぐら追い」のときと同様、日本人作曲家の作品の浄書譜作成をライフワークとしている楽譜作成工房「ひなあられ」にお願いし、使いやすいパート譜を作っていただくことができました。その過程では、パート譜探しの中で存在を知った、初演時に芥川也寸志が使用し、その書き込みが残っているスコア(コピー)なども参照することができ、また団員が協力して校訂作業を行うなど、本当に貴重な経験をすることができました。こんな経験ができるのも、「地元の作曲家」であればこそです。

練習への取り組み

「うぶすな」は、ピアノと和太鼓が非常に重要で、オーケストラだけで演奏してもいまひとつピンときません。今回の練習では、ピアニストの宮下さんと和太鼓一道さんに何回も練習にお出かけいただき、お陰で曲の魅力を存分に感じながら練習を進めることができました。本当にありがたいことです。

加藤晃さんの指揮も、いつもながら熱のこもったもので、団員一同、ひたすら「清茂ワールド」に引き込まれました。

いざ本番!

小山清茂が残した素晴らしい遺産に感謝し、その魅力を味わいつつ、それを地元の多くの皆さんにも知っていただきたい。そんな思いで長い時間をかけて準備してきた今日の「うぶすな」復活演奏です。

長野市出身の方にも、そうでない方にも、この歴史的な機会への立ち会いを記憶に残し、ご当地生まれの傑作の魅力を味わっていただけるよう、精一杯がんばります。どうぞ期待してお聴きください!

(T.M)

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