「パヴァーヌ」とはバロック期にヨーロッパで流行した宮廷舞踊で、2拍子あるいは4拍子のゆっくりとした舞曲のことです。語源については諸説あるようですが、スペイン語でくじゃくを意味する「pavo」に由来すると言われています。厳かに、そして優美に列を作って踊る様子を、大きな尾を広げたくじゃくに見立てたとされています。
フォーレのパヴァーヌは1886年に作曲され、ほぼ同時期に作曲されたレクイエムと並びフォーレの中期を代表する作品として親しまれています。もともと管弦楽曲として作曲されましたが、1887年にロベール・ド・モンテスキューの詩による合唱パートが追加されました。合唱の有無は任意となっており、本日は合唱なしで演奏いたします。
また、この曲は1916年に初演されたバレエ・リュスの「ラス・メニーナス(女官たち)」に用いられました。このバレエは、スペインの画家ディエゴ・ベラスケスが描いた同名の絵画からイメージを得て制作された作品です。ちなみに、元の絵に描かれているのはスペイン・ハプスブルク家フェリペ四世の王女マルガリータで、フランスの作曲家ラヴェルもこの絵をモデルに「亡き王女のためのパヴァーヌ」を作曲しています。ラヴェルのこの作品はフォーレのパヴァーヌから影響を受けたと言われており、2つのパヴァーヌと「ラス・メニーナス」の絵とのつながりが興味深いところです。
曲は3部形式で、最初の旋律を奏でるフルートの音色が印象的です。響きにくいフルートの低音域をあえて使っており、ほの暗く柔らかい音色がこの作品の印象を決定付けます。中間部では突然強奏となり、弦楽器の下降音型とホルンの上昇音型が交互に歌われます。その後、最初の旋律が新たな対旋律を伴って現れ、弦楽器のピツィカートと共に静かに締めくくられます。甘美な旋律と繊細なオーケストレーションを特徴とするフォーレの作品中でも、随一の美しさをもつ名曲です。
(Y.H)