管弦楽のための「木挽歌」は、1957年の作品で、小山の代表作です。かつて小・中学校の音楽科の鑑賞教材になっていたため、ご存じの方も多いのではないでしょうか。この曲は、1954年のラジオドラマ「破れわらじ」の音楽を小山が担当したことがきっかけとなり誕生しました。
「破れわらじ」は、NHKが「民謡の発生をさぐる」というテーマで劇作家の三好十郎に委嘱したラジオドラマで、民謡がどのようにして生まれ、成長し、人々の心に生き続けるようになったかというストーリーが描かれています。劇中で使用された民謡は、佐賀県出身の三好が小山に伝えた地元の民謡でした。この民謡を主題とし、変奏曲によって民謡が成長していくストーリーを描いた作品が、管弦楽のための「木挽歌」です。
曲は民謡のテーマと3つの変奏で構成されています。各部分は管弦楽版ではA~Dと記されているだけですが、後に作曲者自身が編曲した吹奏楽版には標題が明記されています。ここではあえてカッコ書きでその標題を記すとともに、作曲者の著書からの解説文も引用します。
この唄は独奏チェロによって演奏され、全曲のテーマとなります。木を挽く鋸の音は、弱音器を付けたヴァイオリンとヴィオラのスル・ポンティチェロ(極端に駒寄りで弾く奏法)によって表現されています。チェロとコントラバスのフラジョレットの響きと遠くから聞こえる梵鐘は、人里離れた山中の幽玄な雰囲気を感じさせます。
締太鼓と櫓太鼓が打ち鳴らされ、ピッコロによる旋律は盆踊りの始まりを村中に伝えます。オーボエからテーマの変奏が始まり、テナーサクソフォン、フルート・クラリネット、トロンボーンの順に受け継がれていきますが、その節回しは微妙に変化しています。これは歌い手が異なると唄の文句が変わるためで、民謡が形成途上にあることを示しています。合いの手も即興的で愉快なもので、まだレコードが無かった時代の盆踊りとはこのように楽しいものであった、と作曲者は述べています。
この口笛はフルートで演奏されます。伴奏にはグロッケン、チェレスタ、ハープが加わり、都会のきらきらした爽やかな朝を感じさせます。
一転してスピード感溢れる強烈な連打で開始し、テーマが次々と変奏されていきます。変奏はティンパニとスネアドラムを中心とした打楽器にも登場した後、ハープのグリッサンドに導かれてテーマが高らかにうたわれます。民謡のたくましい生命力による感動的なクライマックスです。銅鑼がffffで鳴り渡ると、主題部冒頭のチェロとコントラバスのフラジョレットの響きが回帰し、バスクラリネットが木挽きの唄を呟いて静かに消えていきます。
太字:「日本の響きをつくるー小山清茂の仕事」(小山清茂 著, 音楽之友社, 2004年)より引用
(Y.H)