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過去の演奏会

アントーニオ・サリエーリ/英雄喜歌劇「ファルマクーザのチェーザレ」序曲 “海の嵐”

Antonio Salieri (1750-1825)
Cesare nell' Isola di Farmacusa, Dramma Eroicomico per Musica - Overtura “Tempesta di Mare”

サリエーリはイタリアのレニャーゴに生まれた作曲家です。16歳の時にウィーンの宮廷に招かれ、皇帝ヨーゼフ2世の寵愛を受けて宮廷作曲家と宮廷楽長を歴任し、36年に渡ってウィーン楽壇の頂点に君臨し続けました。彼の創作の中心はイタリアオペラで、実に43作もの作品を残しています。また、弟子にはベートーヴェン、シューベルト、リストらがおり、教育者としても尊敬を集めた人物でした。しかも弟子たちからは謝礼を一切受け取らなかったばかりか、経済的に困窮した弟子のために慈善演奏会を開くなどの支援を惜しまず、慈善活動にも熱心な人格者という人物像が伺えます。

しかしながら現在サリエーリの名が知られているのは、映画「アマデウス」によるもののみと言っても過言ではないでしょう。この映画によって、サリエーリはモーツァルトの才能に嫉妬して意地悪をし、あげくの果てに毒殺した犯人というイメージがすっかり定着しています。ですが、これらは単なる噂や憶測にすぎず、全く根拠のないものであることがサリエーリ側からの研究で明らかになっています。敵対視していたのはむしろモーツァルトの方で、世間にその類稀な才能を認められながらも演奏会はなぜか成功せず、定職に就くこともままならなかったことから、「これはサリエーリが妨害しているからに違いない」という被害妄想を多くの書簡に綴っています。一方、サリエーリはモーツァルトの作品を指揮して演奏会にたびたび取り上げるなど、モーツァルトの才能を尊敬し高く評価していました。音楽的にも人間的にもたいへん優れた人物であったサリエーリの名声が音楽史上稀に見るゴシップによってけがされてしまったことは、残念というほかありません。

歌劇「ファルマクーザのチェーザレ」は、1800年の作品です。チェーザレ(カエサル)とは古代ローマの政治家ユリウス・カエサルであり、「賽は投げられた」や「ブルータス、お前もか」といった言葉で知られる人物です。このオペラの台本は、ローマ帝国の作家プルタルコスの「対比列伝」に書かれているカエサルの英雄伝がもとになっています。

本日演奏する序曲は、実はサリエーリの別のオペラ「見出されたエウローパ」から転用されたものです。「見出されたエウローパ」は1778年、ミラノ・スカラ座のこけら落としの際に上演された作品で、2004年に改修された新スカラ座のオープニングにも上演されています。この序曲には「海の嵐」という標題がついており、ティンパニと金管楽器を中心とした雷鳴や、弦楽器による波のうねりなどが描写され、嵐の中の航海の様子が伝わってきます。ちなみに、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」第4楽章の嵐の描写は、この作品を手本にしたともいわれています。

なお、今回演奏に使用する楽譜は、スコア・パート譜ともに当団団員が作成したものです。この曲の楽譜は市販されていませんが、手書きスコアはヨーロッパの複数の図書館が所蔵し、インターネット上で公開されています。このうち初演時に使用された手書きスコアを底本とし、その他の同時代のスコアも参照しながら楽譜が作られました。作成した楽譜は、手書きスコアにおける誤記音符の修正、強弱記号やスラーの精査など、当時書かれた楽譜を重視しつつ現代の記譜法に則して編集された、いわば「批判校訂版」といえる内容になっています。このような取り組みもあって実現することができた本日の演奏、どうぞお楽しみください。

参考文献:サリエーリ―モーツァルトに消された宮廷楽長(水谷彰良 著、音楽之友社、2004年)

(Y.H)

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