リヒャルト・シュトラウスは、ミュンヘンに生まれた後期ドイツロマン派を代表する作曲家です。85年という長い生涯において、彼の創作期間はブラームスの存命中から20世紀の前衛音楽が台頭した時期にまで及びます(奇しくも、没年はスカルコッタスと同じ1949年)。20世紀中頃まで生きた作曲家としては保守的と見られることもあるリヒャルトの作風ですが、そこには幼い頃から徹底した音楽教育を施した父・フランツの影響があります。フランツはミュンヘン宮廷歌劇場で首席ホルン奏者を務めており、当代随一のホルンの名手でした。フランツの音楽性はブラームスを支持する保守的なものであったため、リヒャルトの初期作品はとりわけドイツ古典派の影響を色濃く残すものとなっています。
本日演奏する協奏曲第1番の原題は、「ヴァルトホルンと管弦楽のための協奏曲変ホ長調」といいます。リヒャルトが18歳の時の作品で、フランツの生誕60周年を祝うために作曲されました。ヴァルトホルンとは「森のホルン」という意味で、狩猟に使われる角笛と区別するための別名のようです。一般的にはナチュラルホルン(音程を変化させるバルブ機構をもたないホルン)を指しますが、この曲のソロはナチュラルホルンでは演奏困難であり、またソロの譜面はバルブ付きホルンの調性であるへ調(F,ファ)で書かれていることから、タイトルとは裏腹にバルブ付きホルンで演奏されることを想定していると思われます。ちなみに、この作品をフランツが公式の演奏会で演奏することはありませんでした。曲は次の3楽章から成り、楽章間は切れることなく続けて演奏されます。
古典派の協奏曲を指向した作品ですが、第1楽章はソナタ形式ではなく自由なロンド形式となっています。ソロ・ホルンによる、ファンファーレ風の主要主題とのびやかな2つの副主題で構成され、主題の間をリズミカルで力強い分散和音が繋ぎます。この分散和音は全曲を通じて重要な役割を果たします。次第に静かになり、切れ目なく第2楽章へと移行します。
第1楽章では英雄的に朗々と歌われていた1つめの副主題が、短調となって寂しげに歌われます。中間部では木管楽器の3連符に導かれ、力強く情熱的な旋律となります。その後は冒頭を回想し、第3楽章に入ります。
第1楽章の分散和音を基にした主題をソロ・ホルンが軽快に歌います。その他の旋律もこれまでの主題を基にしたもので、全曲を通しての一体感が感じられます。ホルンが感動的に歌い上げてクライマックスを築いた後、冒頭よりもさらにテンポを上げて軽快に駆け抜け、全曲を締めくくります。
(Y.H)