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過去の演奏会

伊福部 昭/交響譚詩

Akira Ifukube (1914-2006)
Ballata Sinfonica
第1譚詩 アレグロ・カプリチオーソ Prima Ballata; Allegro capriccioso
第2譚詩 アンダンテ・ラプソディコ Seconda Ballata; Andante rapsodico

同じ年に生まれた小山清茂と伊福部昭ですが、共に伝統的な日本音楽に根ざしながらも、作風には見事に両者の個性が現れています。伊福部音楽といえば、土俗的なリズムのオスティナート(反復)による原始的な生命力にあふれた作品を思い浮かべる人も多いことでしょう。数々の管弦楽曲の他、映画「ゴジラ」のテーマを手がけたことでも広く知られています。

伊福部は北海道の釧路に生まれますが、9歳の年に帯広近郊の音更村に移り住み、ここでアイヌの文化や音楽に触れて育ちました。中学生の頃にはラヴェルやストラヴィンスキーの音楽に傾倒し、独学で作曲を始めます。北海道帝国大学農学部を経て、北海道庁地方林課に勤務する傍らで作曲した「日本狂詩曲」でチェレプニン賞の第1位を獲得。チェレプニン賞とはロシアの作曲家アレクサンドル・チェレプニンによる作曲コンクールで、これがきっかけとなって海外に紹介され、高い評価を受けました。

「譚詩(たんし)」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、かつては「バラード」の和訳として用いられていました。バラードはもともと中世フランスの吟遊詩人が歌う世俗抒情歌の形式のひとつでしたが、その後ロマン派の時代に歴史物語に基づいた詩による歌曲として発展しました。歌詞のない器楽作品に初めてバラードという名称を用いたのは「ピアノの詩人」と称されるフレデリック・ショパンですが、伊福部はバラードについて「詩と踊りと音楽が渾然一体となったかたち」と解釈しています。これは、生活の中にうたと踊りが常に存在するアイヌ民族にとっての「音楽そのもの」であると述べています。

交響譚詩は、30歳という若さで急逝した兄・勲の追悼のために作曲されました。勲はアマチュアギター奏者で、幼い頃から共に音楽を楽しんだ仲間でもありました。勲は戦時中の科学研究員として夜光塗料の研究に従事していましたが、研究中の放射線障害によって命を落としてしまいます。その兄に捧げられたこの曲は、第1譚詩と、第2譚詩の2楽章で構成されています。

第1譚詩 アレグロ・カプリチオーソ
「ソナタ形式と日本人の形式感には齟齬(そご)がある」と主張する伊福部にしては珍しく、ソナタ形式で書かれています。躍動的な第1主題と、オーボエに始まる物寂しげな第2主題から成ります。教会旋法が多用されている点も注目されます。

第2譚詩 アンダンテ・ラプソディコ
曲調は一転し、日本音階によるわびしい音楽になります。第2譚詩の一部は、「日本狂詩曲」の第1楽章「じょんがら舞曲」から転用されました。このじょんがら舞曲は、チェレプニン賞の応募の際に賞の規定に合わせてカットされた楽章でした。この曲のパート譜作成を兄に手伝ってもらっており、兄との思い出を刻んでおきたいという想いが、この第2譚詩には込められています。

(Y.H)

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