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時代背景と作曲家3人の交友関係

今回の演奏会に取り上げる3人の作曲家は、近代イギリス音楽を象徴する作曲家です。彼らは共にイングランドの出身で、親友同士であるなど非常に繋がりの深い関係にありました。曲目解説の前に、まずは彼らが活動した当時の時代背景および3人の関係性について触れておきたいと思います。

<時代背景>

3人が生まれた19世紀後半のヨーロッパ音楽は、後期ロマン派の時代でした。ドイツ語圏ではヴァーグナー、ブラームス、ブルックナーなど名だたる作曲家が居並ぶ一方で、その周辺国ではチャイコフスキー、ドヴォルジャーク、シベリウスといった「国民楽派」と称される作曲家が脚光を浴びることとなります。彼らの登場は音楽におけるナショナリズム(民族主義)がかたちとなって現れたものでした。

当時のイギリス音楽はというと、ドイツ語圏からは「音楽のない土地」と揶揄されるほど、著名な作曲家を輩出できずにいました。エルガーがその空白を埋めるように登場しますが、その作風はドイツ音楽の強い影響下にあるものでした。このような中で国民楽派の台頭を目の当たりにしたエルガーの次代の作曲家たちは、イギリス独自の音楽語法の創出を試みることとなります。彼らの音楽思想に強烈なインパクトを与えたのは、セシル・シャープらによる「英国民謡復興(English Folk Revival)」という運動でした。

セシル・シャープがこの運動を始めるきっかけとなったのは1899年、オックスフォード近郊の村にて村人たちが踊る「モリス・ダンス」を偶然目にしたことです。当時のイギリスは階級社会であり、下層の民衆の文化はシャープら中産階級の人々には知られていませんでした。彼は民謡やダンスにすっかり魅了され、また一方ではこのような民間の伝承を絶やしてはならないという義務感にも駆られて、民謡の保存収集活動に乗り出しました。本日登場する3人の作曲家は、この民謡こそがイギリスらしい音楽であることを見出し、民謡を取り入れた独自の語法によってイギリス音楽復興の旗手となったのでした。

<3人の交友関係>

ヴォーン・ウィリアムズとホルストは、王立音楽大学において作曲をパリ―とスタンフォードに師事しており、その門下生同士として知り合いました。すぐに親しくなった二人は、自作のスケッチを批評し合う演習日を設けて作曲技法を学び合うとともに、友人としての交流を深めました。民謡復興運動に刺激を受けて民謡採集を行なった二人でしたが、その後の作曲家としての方向性は若干異なるものとなりました。民謡のエッセンスを消化吸収して自身の音楽を作り上げることに成功したヴォーン・ウィリアムズに対し、ホルストはインド哲学などの東洋思想や占星術などの神秘主義にも熱中し、東洋の神秘主義と西洋の印象主義をブレンドしたような作風を示しました。ちなみに、ホルストの代表作である組曲「惑星」は占星術に凝っていた時期の作品です。

一方のバターワースは、歌手であった母親から音楽の手ほどきを受け作曲も行なっていましたが、父親の意向で弁護士となるべくオックスフォード大学に進みました。しかし同校にてセシル・シャープやヴォーン・ウィリアムズと出逢い、いっそう音楽に熱中することとなります。バターワースはヴォーン・ウィリアムズと親友になり、二人でたびたびイングランドの田園地方へ民謡採集に出かけました。バターワースはフォークダンスの名手でもあり、特にモリス・ダンスを好んで踊ったといいます。大学卒業後のバターワースは作曲家としての道を歩み始めますが、第一次世界大戦が勃発すると自ら志願して従軍します。そして1916年のソンム戦役において襲撃を指揮中に狙撃され、命を落としてしまいます。親友を失ったヴォーン・ウィリアムズは、その追悼として自身の「ロンドン交響曲(交響曲第2番)」をバターワースに献呈します。この「ロンドン交響曲」は、当初交響詩として作曲が進められていましたが、バターワースの助言により交響曲へと作り変えられた作品でした。また、この交響曲のスコアが紛失した際、バターワースはパート譜からスコアを起こすという重要な作業を手伝ったといいます。既に「海の交響曲(交響曲第1番)」や「トーマス・タリスの主題による幻想曲」で注目を浴びていたヴォーン・ウィリアムズはこの「ロンドン交響曲」でも大成功を収め、イギリスを代表する作曲家としての地位を固めることとなりました。

本日のプログラムは、3人の代表曲をそれぞれ取り上げました。プログラム前半は特にイングランド民謡がふんだんに登場します。初めて聴く曲でも何故か懐かしさを感じてしまう、ノスタルジックな響きをご堪能いただければと思います。

(Y.H)

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