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過去の演奏会

R.ヴォーン・ウィリアムズ/交響曲第5番 ニ長調

Ralph Vaughan Williams (1872-1958)
Symphony No.5 in D major
Ⅰ Preludio: Moderato
Ⅱ Scherzo: Presto misterioso
Ⅲ Romanza: Lento
Ⅳ Passacaglia: Moderato

ヴォーン・ウィリアムズの作風は、我々にもなじみ易い五音音階による民謡風旋律を主体として、印象主義的な色彩感覚を取り入れた独特のものです。これはセシル・シャープとともに800以上にも及ぶイングランド民謡の採集にあたったことと、1908年にラヴェルに師事した影響が強いと考えられています。ラヴェルはヴォーン・ウィリアムズについて「私の音楽を書かない唯一の弟子だ」と称しています。しかし今日一聴して「典型的なヴォーン・ウィリアムズだ」と分かる作品は1908年以降に書かれており、ラヴェルから受けた影響は絶大であったと思われます。一方で、民謡の旋律を直接用いた作品もみられます。吹奏楽曲「イギリス民謡組曲」では、第2曲に『緑の繁み』、第3曲に『南部ドイツ』といった、親友バターワースやホルストも用いた民謡が登場します。

第5交響曲は第2次世界大戦の最中であった1938年から1943年にかけて作曲され、生涯尊敬していたシベリウスに献呈されました。第5交響曲では自身のオペラ「天路歴程(The Pilgrim's Progress)」からテーマの引用が多くみられます。このオペラは、<破滅の都市>に住んでいたクリスチャンという男が、<虚栄の都市>における誘惑を振り切り、さらに破壊者アポリオンとの死闘に勝利して<天上の都市>にたどり着くまでの旅を描いています。第5交響曲は標題音楽ではありませんが、人間の様々な苦難や葛藤を乗り越え、理想の姿へと近づくストーリーを感じることができます。

第1楽章 プレリュード:モデラート

ニ長調、冒頭のホルンによる付点リズムは、ラヴェルのバレエ「ダフニスとクロエ」冒頭からの引用。続いて民謡風の第1主題をヴァイオリンが奏でます。転調しホ長調→ホ短調の第2主題が現れ、展開部はアレグロ。半音下降の「ため息の音型」が木管楽器に現れます。再現部で第2主題が感動的に歌われる部分がこの楽章のクライマックスです。

第2楽章 スケルツォ:プレスト ミステリオーソ

イ短調。忙しく動き回る弦楽器の上で、木管楽器が素朴な旋律を奏でます。トロンボーンに始まるコラールも挿入されますが、裏のヘミオラのリズムがアクセントになっています。

第3楽章 ロマンツァ:レント

ハ長調あるいはイ短調。美しく感動的な第3楽章は、この交響曲最大の聴きどころです。冒頭、弱音器付きの祈るような弦楽器の響きの中で、イングリッシュホルンによる旋律が奏でられます。この旋律は『天路歴程』からの巡礼者の歌で、その歌詞には“He hath given me rest by his sorrow,and life by hisdeath”(彼はその悲しみによって安息を、その死によって生命を私に賜った)とあります。

第4楽章 パッサカリア:モデラート

ニ長調。冒頭でチェロに現れるパッサカリア主題は、『天路歴程』からの引用。パッサカリアとありますが主題は低音だけでなく様々な楽器に現れ、変奏曲が奏でられていきます。途中金管楽器によるファンファーレも『天路歴程』からの引用であり、その頂点でトロンボーンだけが残った後、ソナタ形式の展開部のような部分に入ります。第1楽章の主題が回帰し、天上の世界への階段のような上昇音型と共に回想と祈りの中で曲が閉じられます。

(Y.H)

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