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メンデルスゾーン/交響曲第5番 ニ長調「宗教改革」【初稿】

Felix Mendelssohn Bartholdy (1809-1847)
Symphonie in d-moll, Op.107 "Reformations-Symphonie" 【Original version】
Ⅰ Andante - Allegro con fuoco
Ⅱ Allegro vivace
Ⅲ Andante
(Recitativo)
Ⅳ Choral“Ein' feste Burg ist unser Gott“. Andante con moto-Allegro vivace-Allegro maestoso

メンデルスゾーンは、前期ロマン派を代表するユダヤ系ドイツ人の作曲家です。38歳で夭逝したメンデルスゾーンは、短い生涯の間に数多くの作品を残すとともに、指揮者としても活躍し、J.S.バッハの「マタイ受難曲」やシューベルトの交響曲第8番(「グレイト」)といった忘れられた傑作を蘇らせるなど、音楽史上重要な役割を果たしました。

彼の作風は、古典的で均整のとれた形式美とロマン的情緒がバランスよく結びついたものです。メンデルスゾーンは、上品で抑制された表現を多用したこと、裕福な家庭に生まれ育ったこと、そして何よりもユダヤ人であることに対する差別と偏見から、耳当たりがよいだけで深みのない音楽を書いた二流の作曲家というレッテルを貼られていました。しかし近年では再評価が進み、かつてはヴァイオリン協奏曲ホ短調をはじめとする一部の作品しか聴かれていなかったのが、オラトリオや初期の弦楽交響曲など、様々な作品が演奏されるようになっています。

交響曲第5番「宗教改革」は、1830年、メンデルスゾーンが21歳のときの作品で、出版された順番に従い第5番という番号が付いていますが、実際に作曲されたのは交響曲第1番の次にあたります。

宗教改革(アウグスブルク信仰告白)300年祭で演奏することを想定して書かれたこの曲には、ドレスデンの宮廷礼拝堂で用いられていた「ドレスデン・アーメン」(『讃美歌』(日本基督教団出版局、1954年出版)所収:567番の3)や、宗教改革の創始者ルターが作詞作曲した「神はわが櫓」(同:267番)といった讃美歌が引用されています。メンデルスゾーンの一家は、彼が7歳のときに父親の判断でユダヤ教からキリスト教プロテスタント派に改宗しており、メンデルスゾーンはプロテスタントを篤く信仰していました。この交響曲は音楽による宗教改革者ルターの記念碑であり、また作曲者自身の信仰告白であると言えるでしょう。

しかし、この曲は宗教改革300年祭の式典で演奏されることはありませんでした。以前は式典自体が中止されたと考えられてきましたが、最近の研究成果として、式典は行われたものの、そこでは別の作曲家の作品が演奏されたことが判明し、その原因は恐らくメンデルスゾーンがユダヤ人であったことと推測されています。その後も初演の試みがことごとく失敗し、1832年にベルリンのジングアカデミーでメンデルスゾーン自身の指揮で行われた初演の結果も芳しくないなど、この曲はメンデルスゾーンに大きな失望を味わわせることとなりました。後にはメンデルスゾーン自身もこの曲については失敗作とみなすようになり、「楽譜を破り捨てたいくらい気に入らない」とまで述べています。このため作曲者の生前は出版されず、彼の死後、1860年頃になってようやく出版されました。

なおメンデルスゾーンは、この曲を一旦完成させた後、初演の直前に改訂しています。現在通常演奏されているのは改訂版ですが、本日は改訂前の初稿により演奏します。改訂版ではカットされた部分がいくつかありますが、中でも第4楽章の前に置かれたフルート独奏によるレシタティーヴォは、コラール主題を自然に導き出す役割があり、捨てがたい魅力を持っています。

第1楽章は教会のオルガンの響きを思わせる荘厳な序奏で始まります。序奏の最後において、ピアニシモからわき上がるように弦楽器で演奏されるのがドレスデン・アーメンです。続く主部では苦悩と葛藤を感じさせる音楽。

第2楽章は有名な「真夏の夜の夢」を思わせるようなスケルツォ。メンデルスゾーンならではの抒情的な美しい旋律の聴かれる第3楽章と合わせて、間奏曲的な趣を持っています。

第3楽章から第4楽章へは、フルートによるレシタティーヴォ、コラール「神はわが櫓」と切れ目なく続いていきます。壮麗な第4楽章では神への追従を象徴するフガートによる展開も行われ、最後はコラールの旋律がオーケストラ全体で高らかに歌われ、全曲を閉じます。

なお、この曲にはセルパンという19世紀に使用された低音金管楽器が用いられていますが、本日の演奏ではユーフォニウムで代用します。

(T.M)

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