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過去の演奏会

C.ニルセン/狂詩風序曲「フェロー諸島への幻想旅行」

Carl August Nielsen (1865-1931)
Rhapsodisk Ouverture "En Fantasirejse til Færøerne", FS 123
Rhapsody Overture "A Fantasy Journey to the Faroe Islands", FS 123

ニルセンは19世紀末から20世紀はじめにかけて活躍した、デンマークを代表する作曲家です。ニルセンの作風は、デンマーク的な特質の発露である均整のとれた伸びやかなメロディーと生き生きとしたリズムの感覚をベースにしています。初期には後期ロマン派、中でもブラームスに代表される新古典主義の影響の目立つものでしたが、半音階的進行や多調的な要素により既存の調性の概念を拡大させ、徐々に独自の様式を確立しました。特に、曲想の変化に伴い次々と調性が移行し、その過程を通して曲を展開する「進行的調性」と呼ばれる手法は、ニルセンの代名詞ともなっています。

ニルセンの音楽は、20世紀前半に主流だった前衛とは一線を画すものだったため、冷遇された時期もありましたが、現在では再評価が進み、近代を代表する作曲家の一人とみなされています。

本日演奏する「フェロー諸島への幻想旅行」は1927年の作品で、コペンハーゲンの王立劇場からの委嘱により、フェロー諸島からの使節団の歓迎式典のために書かれました。冒頭では1オクターヴ内の12の音全てが使われている主題が2度のカノンで示されるなど、極めて調性感が薄いのですが、フェロー諸島への航海と上陸の場面を直接想起させる描写的な音楽であり、難解なものではありません。海面に漂う靄(もや)、静かに打ち寄せる波、巨大な蒸気船の進行とタービンの音、海鳥の鳴き声、歓迎のラッパなど、さまざまなイメージが聞こえてきます。靄が晴れるように、徐々に音楽の輪郭がはっきりしてくると、続く部分は一転して親しみやすい旋律と和声になります。この旋律はフェロー諸島を起源とする古い歌で、デンマークでは聖歌「復活祭の鐘はやわらかく響き」として知られています。さらに続くのはフェロー諸島の陽気な民族舞曲で、2拍子の中に時折3拍子が混じるのが印象的。途中、嵐を思わせる混沌とした部分を経て、舞曲の主題によるフガートから最後の盛り上がりを見せた後、静かに曲を閉じます。

ニルセン本人は、この作品はあくまでも義務として書いたものとして、音楽的重要性は認めていませんでした。しかし、聴く者を楽しませつつ、特に冒頭部分ではニルセンらしさが発揮されており、彼の職人芸を感じることのできる作品と言えるでしょう。

(T.M)

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