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過去の演奏会

ブルックナー/序曲 ト短調

Joseph Anton Bruckner (1824-1896)
Overtüre g-moll, WAB 98

ブルックナーは19世紀後半に活躍したオーストリアの作曲家です。教師でオルガン奏者であった父を持ち、幼い頃から音楽に親しんだブルックナーは、オルガン演奏や聖歌隊への参加など、早くから音楽活動を行っていました。その後教師となった彼は、優れたオルガン奏者として名声を得るとともに、作曲活動も行います。当初は彼の作品は世間からは全く理解されませんでしたが、交響曲第7番のニキシュによる初演の大成功などを境に、作曲家としての彼の名声は急激に高まりました。

ブルックナーは宗教作品と交響曲を中心に作曲しましたが、特に交響曲に集中して取り組み、音楽史上最大の交響曲作家の一人とみなされています。彼の作風は、基本的には伝統的な交響曲の様式に根差しながら、ヴァーグナーの影響も認められる半音階的な和声法と管弦楽法、巧みな対位法、さらにブルックナー開始、ブルックナー休止、ブルックナー・リズムなどと呼ばれる独特の語法を特徴としています。また、オルガン的な発想がいたるところに見られることも特筆されます。これらの特徴により、彼の作品の音響世界は、人間的な感情を超越し、超自然的な無限の広がりを感じさせるものとなっています。

ブルックナーの作品は、一時期には、彼の作品を世間に受け入れやすくするために弟子が手を加えた改変版による演奏が広まっていました。現在では改変版が取り上げられることはありませんが、作曲者自身による異稿の存在がクローズアップされています。初期作品に対する周囲の無理解や、厳しい自己批判と上昇志向により、ブルックナー自身が常に自作品に改訂を加えていたのです。これらの問題に国際ブルックナー協会による「ハース版」と「ノヴァーク版」という2種類の原典版の存在(当初校訂作業を担当したハースの仕事を引き継いだノヴァークが、前任者の仕事を批判し、校訂作業を全てやり直した)が加わり、ブルックナーの版問題は複雑なものとなっています。

本日演奏する序曲ト短調は、ブルックナーの最初期の管弦楽作品です。1863年、ブルックナーがウィーンでオットー・キッツラーに管弦楽法を学んでいた頃に書かれた習作で、作曲者の生前に出版、演奏されることはありませんでした。当時ブルックナーが師と共に研究していたヴァーグナーの「タンホイザー」の影響が指摘されるとともに、後年のブルックナーの特徴が随所に現れており、習作ながらも興味深い作品となっています。

曲は厳格なソナタ形式。オクターヴの下降で始まる序奏部は、「ため息の音型」と呼ばれる二度の下降音型や、悲しみを表現する下降半音階により、悲嘆に満ちた雰囲気を漂わせています。主部は、ヴァイオリンをヴィオラが伴奏する軽快な第一主題に続き、同じくヴァイオリンによる十字架の音型が聴かれる、祈るような第二主題が現れます。展開部は比較的あっさりとしたものですが、主部と再現部の推移部も展開的要素があり、金管楽器が活躍して盛り上がります。コーダでは急に天国的な曲想に変わり、壮大な響きで曲を閉じます。

なお、この作品にもやはり版の問題があり、初稿と決定稿がある上、決定稿にはウニフェルザル版(1921年、オーレル&ヴェス校訂)、オイレンブルク版(1971年、ウォーカー校訂)、第二次ブルックナー全集版(1996年、ヤンツィク&ボルンヘフト校訂)の3種類の出版譜が存在します。本日の演奏には、ウニフェルザル版を使用しています。

(T.M)

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