オーケストラ・ソノーレ長野 公式ホームページ

過去の演奏会

マーラー/「子供の魔法の角笛」から

Gustav Mahler (1860-1911)
“Des Knaben Wunderhorn”
この歌は誰がつくったか? Wer hat dies Liedel erdacht?
この世の生活 Das irdische Leben
ライン川の伝説 Rheinlegendchen
トランペットが美しく鳴りわたるところ Wo die schönen Trompeten blasen

今年没後100年を迎えたマーラーは19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したオーストリアの作曲家・指揮者です。生前は指揮者としての高い評価に比べ、作曲家としては必ずしも正しい評価はされませんでしたが、1970年代以降は作品の演奏機会も飛躍的に増えました。現在では、いわゆるクラシック音楽を代表する作曲家の一人とみなされています。

マーラーの作風は、作曲技法的には後期ロマン派から「現代音楽」へ一歩踏み出すもので、シェーンベルクをはじめとする20世紀の作曲家達に大きな影響を与えています。また、彼の創作の中心は交響曲と歌曲でしたが、交響曲には声楽を伴うものが多く、逆に歌曲には管弦楽伴奏が多いことに加えて、両者の間でしばしば転用や引用が行われるなど、これら2つのジャンルは密接に関連し、切り離して考えることはできません。

歌曲集「子供の魔法の角笛」は、ドイツの詩人アルニムとブレンターノにより収集された同名のドイツ民謡詩集(全3巻、1806~1808年出版)から選ばれた詩に作曲されています。この民謡詩集はドイツ・ロマン主義文学史上重要な位置を占めるもので、多くの作曲家がこの詩集に作曲していますが、中でもマーラーはこの詩集に特別な愛着を抱いていたようです。

マーラーは「子供の魔法の角笛」の作曲にあたり、原詩をそのまま用いるのではなく、独自の変更を加え、幻想的な雰囲気を強調しています。音楽的にも、軍楽的要素の多用、レントラーなど民俗舞曲の形式を用いるなど、一聴するとリアリズム的方向性が感じられますが、実際にはリズム、形式や和声などは既存の伝統からかなり逸脱しています。

なお、この歌曲集については、初版と現行ユニヴァーサル版スコアでは収録曲数(前者が12曲に対し後者が10曲)が異なり、また後年に書かれた2曲が含められることもあるなど、作品集としての範囲に注意が必要です。本日演奏する4曲は、初版とユニヴァーサル版に共通して含まれ、曲順の表記は後者によっています。

「この歌は誰がつくったか?」は第4曲にあたり、1892年に作曲されました。原詩は3節ですが、マーラーは第2節を削除し、その代わりに同じ「子供の魔法の角笛」の「恋は誰がつくったか?」という詩からの抜粋を若干変更して挿入しています。いかにも素朴な三部形式のレントラーのようでありながら、極めて複雑な構造を持った曲です。

「この世の生活」は第5曲にあたり、1892年から翌年にかけて書かれました。原詩のタイトルは「手遅れ」ですが、元々は交響曲第4番の第2楽章として構想されており、終楽章の「天上の生活」と対比するためにタイトルが変更されたと考えられます。飢えてパンを欲しがる子供に対し、母親が「明日麦を刈ってくるから」「明日麦を打つから」「明日パンを焼くから」と待たせるものの、パンが焼けたときには子供は死んでいた、という悲惨な内容。原詩は5節からなりますが、マーラーは第1節の麦を蒔く場面と第4節の麦を挽く場面を削除し、3つの場面に凝縮させています。絶え間ない十六分音符の動きでせわしないこの世の生活と子供の焦燥感が表わされます。子供の訴えは繰り返される度に強く、音高の跳躍も大きくなるのに対し、母親の答えは同じ音楽の繰り返しで、一向に改善されない状況が暗示されています。

「ライン川の伝説」は第7曲にあたり、1893年に作曲されました。「ラインの縁結びの指輪」という原詩がほぼそのまま用いられています。ライン川とその支流であるネッカー川に指輪を投げ込んで、それが巡り巡って遠くの恋人を呼び寄せる、という内容。典型的なレントラー風の曲で、作曲後に適当な歌詞を探して当てはめたと言われています。この曲は同じ歌詞を持つ有名な民謡「指輪のお話」との類似が指摘されています。

「トランペットが美しく鳴りわたるところ」は第9曲にあたり、1898年に書かれました。「小さな肖像」と「書き尽せぬ喜び」という同起源の2つの詩を切り貼りし、そこにマーラー独自の詩句も付け加えています。戦死した兵士の霊が恋人のもとに帰ってきて別れを告げる、という内容。極めて透明な抒情が悲しみを誘う、非常に印象的な曲です。

(T.M)

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