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過去の演奏会

ベートーヴェン/交響曲第6番 ヘ長調「田園」

Ludwig van Beethoven (1770-1827)
Symphonie Nr.6 in F-dur, Op.68, "Pastorale"
Ⅰ Allegro ma non troppo
Ⅱ Andante molto mosso
Ⅲ Allegro
Ⅳ Allegro
Ⅴ Allegretto

ベートーヴェンは20代後半の1796年頃から聴力の低下に悩まされはじめます。音楽家として致命的な耳の病に対する不安のため、彼は深刻な精神的危機に見舞われ、一時は自殺まで考えたようです。1802年に書かれ、ベートーヴェンの死後発見された有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」は、その苦悩をつづったものです。ただ、これは遺書とは言うものの、実際には危機を脱してから書かれた復活の意思表示のようなものであると考えられています。事実、ハイリゲンシュタットの遺書を書いた後、ベートーヴェンは非常に旺盛な創作意欲を見せます。交響曲第3番「英雄」を皮切りに、第6番「田園」までの交響曲や、ヴァイオリン協奏曲、3曲の「ラズモフスキー」弦楽四重奏曲など、素晴らしい作品が立て続けに生み出されたため、この時期は「傑作の森」とも呼ばれています。

その「傑作の森」を締めくくるのが、第5番(運命)と第6番「田園」という2つの交響曲です。いずれも1803年頃から1808年にかけて、ほぼ同時期に作曲が進められ、初演も同じ日(1808年12月12日)に行われました。

本日演奏する交響曲第6番は、ベートーヴェンの交響曲中唯一、作曲者自身により標題が記されていて、「田園交響曲」(シンフォニア・パストラーレ)という題名に加えて、各楽章にもそれぞれ標題が添えられています。ただし、標題とはいっても、「中央アジアの草原にて」のような“音画”的なものではなく、ベートーヴェンは「絵画描写というよりも感情の表出」であると強調しています。

この交響曲は、タイトルのとおり、(第4楽章の嵐を除いては)極めて穏やかでリラックスした雰囲気を持っています。交響曲第5番とは対照的な雰囲気であり、しばしばこの2曲については相違点が強調されますが、これら2曲は、徹底した動機操作(限定されたモティーフを徹底的に利用)、楽章構成における古典的枠組からの逸脱(後半の楽章が切れ目なく演奏され、また「田園」に至っては5楽章制をとる)、楽器編成の拡大(以前には交響曲に使用されなかったピッコロ、トロンボーン、第5番においてはコントラファゴットを採用)など、実は共通する特徴も多いのです。共通の足場を持ち並行して生み出された2つの作品が、これだけ異なる印象を与えることには、本当に驚かされます。

第1楽章は「田舎に着いて、はればれとした気分がよみがえる」。民族楽器の響きを思わせるヴィオラとチェロののどかな持続音の上で、ヴァイオリンが楽しげな第1主題を提示します。この能天気とも思える第1主題から、楽章全体が組み立てられています。

第2楽章は「小川のほとりの情景」。弦楽器による伴奏は小川のゆるやかな流れを思わせます。途中ヴァイオリンによるトリルは鳥の声を思わせますが、コーダでは木管楽器による三種類の鳥の声の模倣(スコアに明記:ナイチンゲール、ウズラ、カッコウ)が聴かれます。

第3楽章は「農民たちの楽しい集い」。農村の人々による群舞が思い浮かびます。トリオは拍子が変わり、別の舞曲になります。この第3楽章以降は続けて演奏されます。

第4楽章「雷雨、嵐」は、全曲中最も直接的な描写が聴かれ、遠くで発生した激しい雷雨が近付いて通り過ぎていく様子が描かれています。通常音楽の形式は、最初に提示された主題が再現されて曲の外枠を作るのが普通ですが、この楽章はそうした枠組によらず、嵐の接近と通過という時間の流れに従って音楽が流れていきます。そういった意味で、この楽章は第5楽章への導入部分という性格が強いと言えるでしょう。

引き続き演奏される第5楽章「牧人の歌-嵐の後の喜ばしい感謝に満ちた気分」は、文字どおり極めて牧歌的な音楽です。この楽章も第一楽章と同じく持続音(ヴィオラによる重音)で始まり、また旋律は三度の重音が多用されるなど、バロック時代の「パストラーレ」の伝統に基づいた音楽となっていることが特筆されます。

(T.M)

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