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ハイドン/交響曲第88番 ト長調

Franz Joseph Haydn (1732-1809)
Sinfonia No.88 G-dur, Hob.Ⅰ-88
Ⅰ Adagio-Allegro
Ⅱ Largo
Ⅲ Menuetto; Allegretto-Trio
Ⅳ Finale; Allegro con spirito

今年没後200年を迎えたハイドンは、生涯に100曲を超える交響曲を書き、交響曲というジャンルを確立した作曲家として、「交響曲の父」とも呼ばれています。ハイドンは長い間ハンガリーのエステルハージ侯爵家に仕えていましたが、彼の名声はヨーロッパ中に広まっていました。特にフランスでは早くから人気を博し、1780年代にはパリのオーケストラからの注文により6曲の交響曲(パリ交響曲集)を作曲し、大成功を収めています。こうした状況の中、1787年に、エステルハージ家のヴァイオリン奏者ヨハン・トストが辞職してパリで演奏活動に出るにあたり、ハイドンに2曲の交響曲と6曲の弦楽四重奏曲を注文しました。その注文により書かれたのが、交響曲第88番、同第89番と、作品54と55の弦楽四重奏曲(第1トスト四重奏曲)です。

本日演奏する交響曲第88番は、傑作ぞろいのこの時期のハイドンの交響曲の中でも、ひときわ輝きを放つ作品です。緊密な構成やバロック的な対位法をはじめとする知的な音楽美と、親しみやすい曲想とが両立しており、ハイドンの全交響曲中でも屈指の名曲となっています。昔から数多くの「巨匠」と呼ばれる指揮者がこの交響曲を録音しているのも、おおいにうなずけます。

この交響曲第88番は、オーケストレーションの点でも非常に特徴的な作品となっています。この作品はハイドンがト長調という調性でトランペットとティンパニを用いた最初の交響曲であり(以前はハ長調とニ長調のみ)、さらに、通常の緩徐楽章においてこれらの楽器を使用した最初の交響曲でもあります。当時祝祭的なイメージのあったトランペットとティンパニを、祝祭的な調性であるハ長調やニ長調以外で使用することは、極めて例外的なことでした。さらにそれを緩徐楽章で使用するというのはほとんどあり得ないことだったのです。この交響曲では、そうした常識を破るだけでなく、トランペットとティンパニは、第1楽章では全く使用されず、第2楽章で初めて登場します。この作品を聴いた当時の聴衆の驚きは、我々の想像を超えるものだったと考えられます。

第1楽章は威厳のある序奏の後に、活発に飛び跳ねるような主部が続きます。展開部は和声的にも対位法的にも極めて手が込んでおり、息つく暇もないほど緊迫した密度の高いものです。第2楽章では独奏チェロが活躍し、連綿とおおらかな主題を歌いあげます。この楽章は変奏曲形式ですが、主題自体はほとんど変形されずに繰り返され、伴奏により変化がつけられています。第3楽章は堂々としたメヌエットと、ドローンが特徴的な民俗的なトリオが対比されています。第4楽章は軽快なソナタ・ロンド形式のフィナーレ。展開部で突然繰り広げられるヴァイオリンと低弦楽器のカノンは、知性と聴覚を同時に楽しませるハイドンならではのものです。

なお、この曲は「V字」と呼ばれることもありますが、これはイギリスでハイドンの交響曲が出版された際にアルファベットで通し番号が振られ、この曲が「V」にあたったためであり、曲の内容とは関係ありません。

(T.M)

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