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過去の演奏会

J.ブラームス/交響曲第1番 ハ短調

Johannes Brahms (1833-1897)
Symphonie Nr.1 c-mol, Op.68
Ⅰ Un poco sostenuto-Allegro-Meno Allegro
Ⅱ Andante sostenuto
Ⅲ Un poco allegretto e grazioso
Ⅳ Adagio-Più Andante-Allegro non troppo, ma con brio-Più Allegro

ブラームス最初の交響曲は、1855年、ブラームスが22歳のときに構想され、20年以上という尋常ではない長い年月を経て、1876年に初稿が完成、初演されました。ベートーヴェンの記念碑的な9曲により最も重要なジャンルとみなされるようになった交響曲の分野で、それに続く作品を発表することは、ただでさえ作曲家にとって大きなプレッシャーだったことでしょう。しかも当時の音楽界では、リストとワーグナーを筆頭とする「新ドイツ楽派」が標題音楽や楽劇を続々と発表するなど、絶対音楽としての交響曲というジャンルの存在価値自体が問われ始めていました。そのような状況の中、恩師シューマンから「ベートーヴェンの精神の後継者」として世に紹介され、自身でもそのように自覚していたブラームスが「交響曲」を発表するにあたっては、ただでさえ慎重にならざるを得なかったはずです。しかも完璧主義者ブラームスにとっては、そもそもベートーヴェンの後で交響曲を作曲することは可能なのか、その意味はあるのか、という自問すらあったのではないでしょうか。

ブラームスが満を持して書き上げたこの交響曲は、基本となる動機を徹底して展開することにより曲が組み立てられており、その緻密で堅固な構成には息苦しさを覚えるほどです。そのベートーヴェンゆずりの構成感に加え、苦悩に満ちた序奏(ハ短調)から歓喜に満ちた終曲(ハ長調)へという展開は、ベートーヴェンの交響曲第5番(「運命」)と共通しますし、第4楽章の第1主題がベートーヴェンの交響曲第9番の「歓喜の主題」を思い起こさせるなど、ハンス・フォン・ビューローがこの曲をベートーヴェンの第9番に続く「第10交響曲」と呼んだことに共感する人が多いのは当然と言えるでしょう。また、ベートーヴェンだけでなく、シューマンやシューベルトといった先輩作曲家や、バロック以前の音楽の影響も見受けられます。

しかし、この曲は単に伝統に忠実なだけではありません。スケルツォを置かずに第3楽章を歌謡的なものとしたことや、主調のハ短調に対し、第2楽章が三度上のホ長調、第3楽章が三度下の変イ長調、第4楽章がハ長調と、三度関係に基づくシンメトリカルな調性配置を取っていることなど、構成面、和声面ともに新しい感覚が盛り込まれています。また管弦楽編成も、ベートーヴェンと同程度の古典的なものではありますが、そこから実際に生み出される音は、ブラームス独自の楽器の扱いにより、地味ながらも明らかに「新しい」響きがします。十二音技法を確立したシェーンベルクが「隠れた革新者」と呼んだブラームスの本領は、この作品でも十分に発揮されていると言えるでしょう。

第1楽章は重々しい序奏で始まりますが、この序奏に含まれるいくつかの動機が、全曲を通して徹底して展開されてゆくこととなります。主部は極めて入念に作り込まれたソナタ形式。

第2楽章は情感豊かな緩徐楽章。最後のヴァイオリン・ソロは、ブラームスの作品中でも屈指の美しさです。

第3楽章は通常のスケルツォではなく、アレグレットの間奏曲のような楽章。クラリネットの旋律で始まる繊細な主部と、舞曲風の中間部が対比されます。

第4楽章も長大な序奏を持つ。重苦しく低弦楽器で始まり、緊張が高まった後、ホルンによる「アルペンホルンの旋律」とトロンボーンとファゴットによるコラールを経て、主部へとつながります。最後は第1主題の動機に基づく音形を執拗に繰り返し、圧倒的なクライマックスを迎えます。

(T.M)

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