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過去の演奏会

ハチャトゥリアン/ヴァイオリン協奏曲

Արամ Խաչատրյան
Арам Ильич Хачатурян
Aram Il’ich Khachaturyan (1903-78)
Концерт для скрипки с оркестром
Concerto for Violin and Orchestra
Ⅰ Allegro con fermezza
Ⅱ Andante sostenuto
Ⅲ Allegro vivace

ハチャトゥリアンは旧ソヴィエト連邦を代表する20世紀の作曲家です。代表作としてはバレエ音楽『ガヤネー』(ガイーヌ)が知られ、中でも「剣の舞」の強烈なリズムは、多くの方におなじみで、一度耳にしたらなかなか忘れられないものでしょう。

ハチャトゥリアンはグルジアのティフリス近郊の村(現在のトビリシ)に生まれたアルメニア人です。彼の生まれ育った場所は、アルメニア、グルジア、アゼルバイジャンといった様々な人種が混在し、それぞれの民族音楽に溢れていました。このような環境の中で製本工の息子として生まれたハチャトゥリアンは、民族音楽の響きに包まれて成長します。幼い頃に触れた民族音楽の形式、イントネーション、リズムなどは、「母乳」のように自分の作品に染み込んでいると、彼自身が後に述べています。

ハチャトゥリアンの作風は、強烈なリズム、ドローン(持続音)の多用、二度や七度の響きを好む和声など、幼い頃から親しんだ民族音楽のエッセンスを、西洋クラシック音楽の枠組みの中に大胆に盛り込んだものです。極めて土俗的で生命力に溢れ、即興演奏を書き留めたかのようなスタイルでありながら、クラシック音楽の様式感を失うことなくまとめられている点が大きな特徴です。また、管弦楽曲の場合には、色彩感溢れるオーケストレーションが一層その魅力を引き立てています。

本日演奏するヴァイオリン協奏曲は、作曲者の友人で名ヴァイオリニストのオイストラフを想定して書かれ、彼に献呈されています。モスクワ音楽院卒業後、作曲家としての地位を固めつつあったハチャトゥリアンは、1938年、アルメニア芸術旬間の行事のためにアルメニアの首都エレヴァンを訪れ、後の『ガヤネー』の元となるバレエ『幸福』を作曲しながら、首都周辺の民族音楽を研究しました。この協奏曲は、そのときのスケッチを元に、1940年の夏に2ヶ月という短期間で一気に書き上げられました。作曲中には、ハチャトゥリアンのもとをしばしばオイストラフが訪れ、彼の意見も積極的に取り入れられています。完成した協奏曲は、1940年11月16日にオイストラフの独奏、ガウク指揮ソヴィエト国立交響楽団の演奏で初演されましたが、オイストラフの名演も手伝って圧倒的な成功を収め、作曲者の名声を世界的なものにしました。

第1楽章はオーケストラのユニゾンによる力強い序奏の後、独奏ヴァイオリンがエネルギッシュな第1主題を演奏します。第2主題は一転して悩ましく歌うような旋律で、対照的な雰囲気を持っていますが、展開部でオーケストラが第2主題を叙情的に演奏するときに、独奏ヴァイオリンは第1主題の変形を軽やかに弾いて伴奏するなど、単なる対比にとどまらない興味深い扱いが聞かれます。また、この楽章のいくつかの動機は、楽章内にとどまらず、続く第2、第3楽章でも用いられ、全曲の統一が図られています。

第2楽章は濃厚な東方民族的雰囲気と強い郷愁に満ちた緩徐楽章。中間部クライマックスでは、抑えきれなくなった感情が突然爆発します。

第3楽章は躍動的なロンド。ハチャトゥリアンらしい強烈なオスティナート・リズムの序奏の後、独奏ヴァイオリンが弾くロンド主題は、古典的なロンド主題としても違和感がなく、同時に民族的な味わいも色濃いもの。第1楽章の第2主題が回想される部分も大変印象的です。

なお、第1楽章の独奏ヴァイオリンのカデンツァには、作曲者によるものとオイストラフが書いたものがあります。オイストラフ版は作曲者も「幻想的で美しい」と大変高く評価していたようで、現在も多くの演奏者がオイストラフ版を弾いています。本日のソリスト上原さんも、オイストラフのカデンツァを選ばれました。

(T.M)

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