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過去の演奏会

ドヴォルジャーク/交響曲第9番 ホ短調「新世界より」

Antonín Dvořák (1841-1904)
Ⅸ. Symfonie e moll, Op.95 “Z nového svéta”
Symphony No.9 in E minor, Op.95 “From the New World”
Ⅰ Adagio-Allegro molto
Ⅱ Largo
Ⅲ Scherzo: Molto vivace
Ⅳ Allegro con fuoco

チェコの国民的作曲家ドヴォルジャークは、プラハ近郊の村で宿屋兼肉屋の長男として生まれました。幼い頃から音楽に興味と才能を示した彼は、貧しさにくじけることなく努力を重ねて才能を開花させ、やがてブラームスに認められたのをきっかけに、国際的な名声を得るまでに至りました。

1892年、ドヴォルジャークは、ニューヨーク・ナショナル音楽院に招かれて渡米し、95年春まで院長を務めました。アメリカにおいて、ドヴォルジャークは黒人や先住民であるアメリカ・インディアンの音楽に強く惹かれます。彼は1893年5月付けの『ニューヨーク・ヘラルド』紙に掲載されたインタヴューで「この国の将来の音楽は、“黒人メロディ”と呼ばれる歌を基にして書かれることになるだろうと確信している」などと述べているほか、音楽院でも黒人の学生に特に目を掛けていたとも言われています。こうして非西欧にルーツを持つ民俗音楽から影響を受けるとともに、アメリカ大陸の壮大な自然に深い印象を覚え、同時に遠く離れた故郷チェコへの思いも募らせながら、ドヴォルジャークは交響曲第9番「新世界より」、弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」、そしてチェロ協奏曲といった、独特の魅力を放つ傑作を書き上げました。これらは、ドヴォルジャークの作品中でも特に人気のある曲となっています。

本日演奏する交響曲第9番「新世界より」は、ベートーヴェンの「運命」と並んで、古今東西の交響曲の中で最も知られた作品です。1892年9月にニューヨークに到着したドヴォルジャークは、その年のうちに、当地で聴いた黒人やアメリカ・インディアンの音楽に触発されて、この交響曲のスケッチを書き始めました。スケッチは翌年5月中には完成し、彼が音楽院の夏期休暇中の避暑地として選んだ、アイオワ州のスピルヴィルというチェコ移民の村で、オーケストレーションが行われました。

「新世界より」というこの曲の標題は、作曲が終わった後で、思い立ったようにスコアに書き加えられたようですが、様々な刺激に満ちた新世界から遠い故郷に想いを馳せていた作曲者の心境を、これほど的確に表す言葉もないでしょう。この作品が黒人やインディアンの音楽を知らなければ生まれなかったことは明らかですが、個々のメロディについては、論者によって同じ旋律が黒人霊歌と具体的に関係付けられたり、逆にボヘミア的であるとされたりと、様々に受け止められているものもあります。アメリカ的であり、同時にチェコ的である音楽。音階やリズムなど、双方の民俗音楽に共通する要素があることを差し引いても、このような作品を生み出したドヴォルジャークという作曲家の懐の深さと、最も深い意味での民族主義的精神が感じられます。さらに、全曲を通じて、豊かな旋律が次々と溢れ出るように現れるにもかかわらず、全く散漫にならず、楽章内、あるいは楽章間で各主題が互いに関連し、極めて有機的かつ自然にまとめ上げられていることにも、驚かされるばかりです。

第1楽章の序奏は瞑想的な雰囲気で始まりますが、シンコペーションのリズムを軸に盛り上がり主部へと続きます。ソナタ形式の主部は、序奏で出た 長-短|短-長 というリズムを特徴とする五音音階の動機を核として、緊密に構成されています。

第2楽章は、スケッチでは「伝説曲」と書かれており、ドヴォルジャークが魅了されていた米国の詩人ロングフェローの詩『ハイアワサの歌』の中の「森の葬式」から霊感を得たものとされています。イングリッシュ・ホルンで奏でられる主題は一度耳にしたら忘れられないほど印象深いもので、ドヴォルジャークの弟子が歌詞を付けて『家路』という歌にしたこともあり、世界中で親しまれています。

第3楽章はやはり『ハイアワサ』の「インディアンの踊りの儀式」から霊感を得たと言われる、緊迫したリズムによるスケルツォ。トリオは極めて対照的な、ボヘミアの農村風景が目に浮かぶようなのどかな音楽です。

第4楽章冒頭の勇壮なテーマも、多くの方におなじみの旋律でしょう。この楽章では、前の3つの楽章の主題が全て回想され、壮大なフィナーレを作り上げますが、最後に残る管楽器の静かな和音が極めて印象的です。この消え行く和音の向こうに、ドヴォルジャークは何を見ていたのでしょうか。

(T.M)

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