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過去の演奏会

リャードフ/8つのロシア民謡

Анатолий Константинович Лядов (1855-1914)
8 Русских народных песен, Op.58
Anatoly Konstantinovich Lyadov(1855-1914)
8 Russian Folk Songs, Op.58
第1曲 宗教歌 Духовный стих
第2曲 コリャダー・マレダー Коляда-маледа
第3曲 延べ歌 Протяжная
第4曲 おどけ歌 Шуточная
第5曲 小鳥のブィリーナ Былина о птицах
第6曲 子守唄 Колыбельная
第7曲 踊り歌 Плясовая
第8曲 群舞の歌 Хороводная

リャードフは19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したロシアの作曲家です。音楽家の家系に生まれたリャードフは、リムスキー=コルサコフに師事し、国民楽派の技法を受け継ぎながらも、矛盾に満ちた当時のロシアの現実からは逃避し、もっぱら幻想の世界を描き続けました。絵画の素質にも恵まれていたリャードフは「音の細密画家」とも呼ばれ、ピアノや管弦楽のための小品において独自の境地を開いています。

リャードフは1897年にロシア地理協会から、協会が収集した民謡の編曲を依頼されました。その編曲はいずれも単旋律にピアノ伴奏を付ける形で行われ、4冊のロシア民謡集として出版されました。本日演奏する「8つのロシア民謡」は、その仕事の集大成として、4つの民謡集から抜粋して管弦楽用に編曲されたものです。8曲はロシアの代表的な民謡のジャンルを網羅し、単に民謡の旋律だけを用いるだけではなく、独特の多声法やリズムを再現しながら、リャードフならではの「細密画」的なオーケストレーションでロシアの農村の風景を描いています。各曲はそれぞれ独立していますが、全体は大きく3つの部分に分けられ、それぞれの部分は緩-急という実際の民謡演奏における曲の組み合わせに倣って構成されています。調性的にも細かな配慮を加えて組み立てられており、曲全体としても有機的なつながりを持った作品となっています。

第1部を構成するのは第1曲と第2曲です。第1曲「宗教歌」は「プートニク」と呼ばれる盲目の巡礼が歌う宗教的な民謡で、音楽的には特定の様式を持たず、様々な民謡のスタイルを借りて歌われます。ここでは短い旋律を繰り返しながら歌うブイリーナに近いスタイルが聴かれます。第2曲、「コリャダー・マレダー」とは、もともとは古代スラヴの自然崇拝に基づく儀礼で、農村で翌年の豊作を祈って行われます。若者達が歌を歌いながら家々を回ってその家の主人を祝福し、主人は食物や菓子を配って感謝する、というもので、ちょうどクリスマスの時期に行われ、クリスマス・キャロルと似ているため、表向きはキリスト教の行事として保存され、異教弾圧の対象からは外されました。コリャダーにはおどけたものと宗教色の濃いものがありますが、この曲は前者2曲のメドレーになっています。

第3曲から第5曲までが第2部です。第3曲「延べ歌(プロチャージナヤ)」は、ひとつひとつの音節を長く引き延ばして歌われる、ゆったりとした叙情的な歌。最初に音頭とり(ソリスト)が一節を歌うと、次に重唱になり、最後に合唱が加わる、という歌唱スタイルと「ポドゴロスキ(充填声部)」と呼ばれるロシア民謡独特の多声法が再現されています。第4曲「おどけ歌」は「あたしは蚊と踊った」というユーモラスな踊りの歌。1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンのトリルの応酬により、蚊がうるさく飛び回る様子が描写されています。第5曲「小鳥のブイリーナ」、ブイリーナは古代ロシアの英雄や動物を歌った叙事詩で、歌と語りの中間のような朗唱的で短い旋律が何度も繰り返されます。リャードフの編曲では、木管による小鳥のさえずりの模倣が見事です。

第6曲から第8曲までが第3部となります。第6曲「子守唄」では、2部に分かれたヴィオラにより優しく揺れる揺りかごの動きが描かれます。どこの国にもある子守唄ですが、日本の「ねんねんころり」に対し、ロシアでは「ばーゆ・ばい」などといったあやし声が入ります。第7曲「踊り歌」は、プリャースカと呼ばれる踊りの歌で、男性のソロ、あるいは数人が同時に独立して踊ります。弦楽器のピチカートによりバラライカなど民族楽器の響きが模倣されています。第8曲「群舞の歌」はホロヴォードと呼ばれる遊戯的な群舞の歌で、男女の2群に分かれ、手をつないで輪になって踊ります。全曲を締めくくるのにふさわしく華やかに編曲されています。

(T.M)

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