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過去の演奏会

ブラームス/交響曲第2番 ニ長調

Johannes Brahms (1833-1897)
Symphonie Nr.2 in D-dur, Op.73
Ⅰ Allegro non troppo
Ⅱ Adagio non troppo
Ⅲ Allegretto grazioso (Quasi Andantino)
Ⅳ Allegro con spirito

ブラームスの筆の遅さはよく知られており、中でも交響曲第1番を書くのに20年あまりの歳月を要したことは有名です。これは、音楽史上に燦然と輝くベートーヴェンの9曲の傑作を超える作品を、という思いから、ブラームスが慎重に慎重を期したためと考えられます。これに対し、第1交響曲完成の翌年、1877年6月に着手された交響曲第2番は、同年9月、わずか4ヶ月足らずという異例の短期間で書き上げられました。内容的にも、第1交響曲が複雑な構成を持ち「苦悩を乗り越えて歓喜へ」という曲想を持つのとは対照的に、第2交響曲は明快な構成と明るく暖かな雰囲気を基調としています。

この理由としては、彼が第1交響曲の成功で長年のコンプレックスから解放され自信を得たことや、南オーストリアのヴェルター湖畔のペルチャッハという豊かな自然に包まれた場所で作曲されたことが挙げられることが多いのですが、そうした理由に加えて、第1交響曲に携わった長い年月の間に、そこに盛り込めなかった楽想が彼の中に蓄積されていた、という理由も大きいでしょう。事実、冒頭で提示される基本動機を駆使した全曲の組み立て方は、推敲を繰り返したかのような堅固な仕上がりです。緻密な構成と流れるような自然さ、そして開放的な気分が同居する第2交響曲は、ブラームスの作品中でも異彩を放つ傑作となっています。

第1楽章の冒頭で低弦楽器により提示されるD-Cis-D(固定ド表記:れ-ど♯-れ)という3つの音が全4楽章を通じて曲を統一する基本動機となっています。この基本動機から流れ出すようにホルンと木管により奏でられるのが第1主題であり、第1楽章は基本動機とこの第1主題を中心に、特に緊密に構成されています。チェロとヴィオラによる愁いに満ちた第2主題は、第1主題とは対照的なものですが、そこに絡むヴァイオリンの音形は、他ならぬ第1主題から派生しています。対照と統合という矛盾を見事に解決するこのアイデアは、まさに職人芸と言えるでしょう。

第2楽章は「孤独」や「憧れ」という極めてロマン主義的なものを連想させます。チェロが連綿と歌う第1主題にはじまり、物思いにふけるような雰囲気を基調としますが、途中で2度起こる感情の爆発が非常に印象的です。

第3楽章は通常ならスケルツォとなるべきところですが、単純なスケルツォを置かないのはブラームスの4曲の交響曲に共通する特徴です。この楽章は全部でABAB’Aという5つの部分からなりますが、Aの部分はゆったりとしたレントラー風の舞曲で、作曲場所のペルチャッハを彷彿とさせる音楽です。これに対しB(B’)は急速なスケルツォ風になっていますが、この部分もAの主題に基づいており、ここでも対照と統合が両立されています。しかもBが4分の2拍子、B’が8分の3拍子という芸の細かさで、聴き手を飽きさせません。初演の際に聴衆からアンコールされたというのもうなずけます。

第4楽章は、これまでの3つの楽章のそれぞれ異なった雰囲気を全て盛り込むように、曲想が次々と転回しますが、やはり徹底した基本動機の使用により統一感が保たれています。ブラームスにしては珍しく開放的な盛り上がりを見せるという印象の強い楽章ですが、実際には室内楽的に書かれていたり、気分的にも煮え切らない部分が多く、それゆえに最後の圧倒的な輝かしさが一層強く印象付けられます。

(T.M)

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