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過去の演奏会

ドビュッシー/小組曲

Claude Debussy (1862-1918) / arr. Henri Büsser
Petite Suite
第1曲 小舟で En bateau
第2曲 行列 Cortège
第3曲 メヌエット Menuet
第4曲 バレエ Ballet

近代フランスの作曲家ドビュッシーは、既存の概念を覆す革新的な作品を発表し、20世紀の音楽に計り知れない影響を与えました。特に和声面においては、従来の機能和声に囚われず、ひとつひとつの和音の響きやその移り変わりを重視して新鮮な響きを生み出しました。その特徴が印象派絵画の色彩表現や輪郭の曖昧さを連想させるところから、ドビュッシーは音楽における印象派と呼ばれることが多いのですが、彼自身の美学は印象派とは相容れないもので、印象派絵画も好んでたわけではなく、むしろ自身が印象派と呼ばれることを嫌っていました。

「小組曲」は、もともとはピアノ連弾のために、1886年から1889年にかけて書かれた作品で、1907年にドビュッシーの友人でもあった指揮者アンリ・ビュセールが管弦楽用に編曲したものです。4曲のうち第1曲「小舟で」と第2曲「行列」は、ドビュッシーが傾倒していたフランスの象徴派詩人ヴェルレーヌの詩集「艶なる宴」の2篇と共通する題名を持っており、また第3曲「メヌエット」は、やはりドビュッシーが好んだ高踏派詩人バンヴィルの詩に作曲した歌曲「艶なる宴」(1882年)の旋律を用いています。「艶なる宴」とは、ルイ王朝時代の貴族が催した野外の宴で、貴族たちはコメディア・デラルテ(イタリアの即興仮面喜劇)に登場するピエロやアルルカン、コロンヴィーヌといったキャラクターの仮装をして、歌や踊り、飲食に興じました。その様子はワトーをはじめとする18世紀のロココ画家の間で流行の画題となり(「雅宴画」)、ヴェルレーヌやバンヴィルの詩は、そうした雅宴画からインスピレーションを受けて書かれています。ドビュッシーの「小組曲」も、華やかさの中に憂愁が漂う「艶なる宴」の世界を音楽化したものと言えるでしょう。

この曲は伝統的な機能和声の範囲内で書かれていますが、ところどころで後の彼の作品を特徴付ける教会旋法や全音音階的な響きが聞かれるなど、旧来のロマン派音楽とは異なる新鮮さを感じさせ、若いドビュッシーの瑞々しい感性の溢れる作品となっています。第1曲「小舟で」は、ハープとヴァイオリンの奏でるさざなみに乗ってフルートが夢見るように歌う舟歌。第2曲「行列」は、軽やかな行進曲。ヴェルレーヌの同名の詩は、露払いの猿と裾持ちの黒人のお小姓、そして彼らの主人であり、分不相応な片恋の対象である貴婦人の行列を軽妙に描いたものです。第3曲「メヌエット」は、イングリッシュホルンの典雅な音色が印象的。中間部のノスタルジックな旋律も忘れがたいものです。第4曲「バレエ」は躍動的な二拍子の舞曲ですが、中間部には官能的なワルツが置かれ、コーダではワルツの旋回を早めて華やかに曲を閉じます。

(T.M)

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