1823年、シューベルトは女性詩人シェジーの脚本による四幕のロマン的劇「キプロスの女王ロザムンデ」のために、付随音楽の作曲の依頼を受けます。シューベルトはこの戯曲のために、合唱や独唱付きのものを含む10曲の音楽を書き、時間がなかったために、序曲には前年に作曲した歌劇「アルフォンソとエストレッラ」の序曲を転用しました(後に歌劇「魔法の竪琴」序曲の四手ピアノ用編曲を出版した際に「ロザムンデ」というタイトルを付けたため、現在では「魔法の竪琴」序曲が「ロザムンデ」序曲として知られています)。同年12月20日にウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で行われた初演は、台本の稚拙さのために失敗に終わりましたが、シューベルトの音楽は比較的好評だったようです。
この戯曲は台本が失われており、詳細な筋を知ることはできませんが、当時の新聞批評やシューベルトが作曲したテキストなどから推定すると、「キプロス島で貧しい漁師の未亡人アクサに育てられたロザムンデが18歳になったとき、彼女がキプロスの王位継承者であることが布告される。しかし当時の代理統治者フルゲンティウスは、その地位を守るため、ロザムンデを自らの妻としようとし、失敗すると毒を盛った手紙によって彼女を暗殺しようとする。ロザムンデはマンフレートという青年に窮地を救われるが、彼こそはロザムンデの婚約者に定められていたクレタの王子アルフォンソであった。結局フルゲンティウスは戻ってきた手紙によって自滅し、最後はロザムンデとアルフォンソが結ばれハッピーエンドを迎える。」というものです。
本日演奏する曲のうち、バレエ音楽第1番は、第2幕でフルゲンティウスがロザムンデのために行う祝宴の場面で踊られるもので、第1幕と第2幕の間に挿入される間奏曲と同じ素材が用いられています。羊飼いのメロディーは第4幕の羊飼いの合唱の前奏として演奏される短いながらも極めて印象的な曲。バレエ音楽第2番は、第4幕の最後に幸福な結末を祝って踊られるものです。いずれもシューベルトならではの素朴で美しい旋律が次々と溢れ出る、親しみやすい音楽です。
(T.M)